さとり

 ここ5~6年間、夜あまりよく眠れなかったのですが、最近、特によく眠れます。短時間ですが、夜ぐっすりと眠っている感じがします。多分、精神的にも、肉体的にも相当無理をしてきた反動ではないかと思っているのですが、しかし、この今までにない、爆睡感は何なのでしょうか。

 上廣榮治 「倫風宏話」より 

 一人の木こりが山で木を伐っていると、見たこともない珍獣が姿を現し、木こりをからかう。木こりがこの珍獣を捕まえようとすると、「お前は今、俺を捕まえようとしたな」と嘲笑する。この珍獣、人の心が読めるのかと木こりが驚くと、「人の心が読めるのか、と思ったな」と笑う。腹を立てた木こりが斧で打ち殺そうとすると、「殺そうとしたな」と言う。仕事にならないので、放っておこうとすると、「放っておこうと思ったな」と言う。退治しようと思っても全く歯が立たない。そこで木こりは、この珍獣にかまわず、木を伐ることに集中し、力の限り斧を振ること没頭した。すると、斧の柄が緩んでいたのか、斧の頭が外れて飛んで行き、珍獣の頭に当たり、この珍獣は即死した。この珍獣の名前は、「さとり」と言い、木霊(こだま)を擬人化したものとされる。こだまならこちらが発したことばを返すはずである。

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 この例え話は、自分自身の心の中に飼っている「もう一人の自分」について説いたものです。人は、自分自身を非難し、責め立て、おだて、そそのかし、自分を翻弄する「もう一人の自分」と戦いながら生きています。これに勝つためには、今、目の前の自分の仕事に専念没頭することが第一であると説いてみせています。自分自身に当てはめて考えてみますと、私は今、数年来の悶々とした生き方に決別し、明確な生きる指針を与えられ、その使命感に燃えています。自分は今、自分の果たすべき使命を与えられ、その使命感のもと無心の状態で毎日を精一杯過ごしています。ひょっとしたら、自分の心の中に飼っていた「さとり」を一匹退治したのかもしれません。それでよく眠れるのではないかと感じています。 

与えられた使命遂行に直球勝負